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【ゆる言語学ラジオ】「た」

現代日本語の「た」には、たくさんの意味が含まれていますが、これをどのように解釈すればいいのでしょうか?ゆる言語学ラジオの内容から、4人の著名な研究者のアプローチをもとに、「た」の多義性を徹底解説します。

現代日本語の「た」の多義性についての研究まとめ

1. 尾上圭佑先生のアプローチ:過去と完了

尾上先生は、「た」の本質を過去と完了の二つの意味で説明しています。さらに、これらの意味が独立して発展した結果、以下のような具体的な意味が生じると説明します:

  • 過去:事象が過去に発生したことを示す。
  • 完了:事象が完了していることを示す。
  • 確認:事象が完了した結果として確認されたこと。
  • 早期:過去の事象を思い出して再確認すること。

2. 溝越あきら先生のアプローチ:確認

溝越先生は、「た」の本質を「確認」として説明しています。つまり、話者が事象を確認したという意識が「た」の使用に反映されるとしています。このアプローチでは、確認の意味が独立して「た」の様々な使い方を説明できます。

  • 過去の確認:過去の事象を確認する際に使われる。
  • 仮定法の確認:仮定の事象を確認する場合にも適用可能。

3. 山本正子先生のアプローチ:認知言語学的視点

山本先生は、認知言語学のイメージスキーマを用いて「た」を説明します。特に、起点・経路・到達点スキーマを使って、「た」が事象の変化や経過を示すものとして捉えています。

  • 起点:過去のある時点から始まる。
  • 経路:事象の進行を示す。
  • 到達点:現在に至る。

4. 定信靖先生のアプローチ:テンス(過去形)での統一的説明

定信先生は、「た」のすべての意味を過去形(テンス)で説明できると主張しています。この理論では、情報のアクセスポイントという概念を導入して、「た」の様々な使い方を統一的に説明します。

  • 情報のアクセスポイント:過去の特定の時点から情報にアクセスすること。
  • 探索意識:話者が事象を予期しているかどうかによって「た」の使用が決まる。

具体例と考察

  • 電話番号の例:過去の記憶にアクセスして情報を引き出すことで、「彼の電話番号はこれだったかな?」という表現が説明されます。
  • ピサの斜塔の例:600年前のピサの斜塔が新しかったと述べる際に、過去の知識にアクセスすることが求められます。
  • 飲み屋の例:「飲んでいる」と「飲んだ」の使い分けは、探索意識があるかどうかによって決まります。

総括

現代日本語の「た」の多義性について、複数の研究者が様々な視点からアプローチしています。尾上先生の過去と完了、溝越先生の確認、山本先生の認知言語学的視点、そして定信先生のテンス統一的説明は、それぞれ独自の理論で「た」の複雑な意味を解明しています。これらの理論を統合することで、「た」の多義性をより深く理解することが可能になります。

参考文献

  • 尾上圭佑著 『日本語の文法と意味』
  • 溝越あきら著 『日本語の時間と意味』
  • 山本正子著 『日本語学習者の文法研究』
  • 定信靖著 『日本語学と対照言語学研究』

1. た

問題提起

  • 外国人が「日本人には自生の概念は存在しないのか?」と質問。
  • 「た」が過去形だけでなく、未来や現在にも使えるのかという疑問が出される。

日本語ネイティブの回答と議論

  • 「た」は過去を表す助動詞と習ってきたが、実際には未来や現在を表す場合もある。
  • 文法的には、「た」は過去の助動詞とされているが、使い方はもっと柔軟である。
  • 「た」が過去形以外の意味で使われる例として、昔話「桃太郎」や中学生の作文が挙げられた。

学術的な見解

  • 文法学者の見解として、「た」は助動詞ではない可能性がある。
  • 他の可能性として、助詞や屈折語尾(活用形の一部)という見方がある。
  • 日本語学習者向けの教育では、「ます形」を基本とし、「た」を辞書形や可能形などと教える。

結論とまとめ

  • 「た」の使い方は非常に柔軟で、文法的には過去形だが、実際には未来や現在の意味で使われることもある。
  • 学術的には、「た」を過去の助動詞とする見解の他に、助詞や屈折語尾とする見解も存在する。
  • この議論を通して、日本語の文法は固定的ではなく、多様な解釈が存在することが示された。

2. 「た」には6種類あるし、○○も□□も表せる【た2】

問題提起

  • 架空の外国人が「日本語の『た』は過去形以外にどんな意味があるのか?」と質問します。

堀本さんの回答と議論

  • 「た」は過去形として使われることが多いが、それだけではない。
  • 具体例として、以下の文が挙げられました:
    • 「明日は彼女の誕生日だった」:未来の意味ではなく、発見や気づきを表す。
    • 「バスが来た」:現在進行の発見を表す。

日本語の「た」の意味の分類

堀本さんは、尾上圭佑の「文法と意味」から「た」の意味を整理し、以下の6つに分類しました:

  1. 過去:単純に過去の出来事を表す。
  2. 完了:ある動作が完了したことを示す。
  3. 単なる状態:ある状態が継続していることを表す。
  4. 格言:以下の4つにさらに細分化される。
    • 事態の獲得:事柄の認識や理解を示す。
    • 見通しの獲得:将来の見通しや予測を示す。
    • 発見:新たな発見や気づきを示す。
    • 決定:ある決定や行動を示す。
  5. 要求:要求や命令を示す。
  6. 早期:思い出しや回想を示す。

文法用語の導入

堀本さんは「テンス」「アスペクト」「モダリティ」という3つの文法用語を説明しました:

  • テンス (Tense):動作がどの時間に成立したかを示す(例:過去形)。
  • アスペクト (Aspect):動作の局面を示す(例:完了形、進行形)。
  • モダリティ (Modality):話者の主観的な判断や態度を示す(例:意志、願望)。

分類の再整理

堀本さんは尾上圭佑の分類をさらに簡略化し、「た」の意味を以下の3つに整理しました:

  1. テンス:過去
  2. アスペクト:完了、単なる状態
  3. モダリティ:格言、要求、早期

まとめと今後の展開

  • 「た」は過去形以外にも多様な意味を持つことが示された。
  • 今後のエピソードでは、さらに具体的な例や異論を紹介し、「た」の多様性について深掘りしていく予定。

結論

日本語の「た」は、単に過去を表すだけでなく、完了、状態、発見、決定、要求、早期など、さまざまな意味を持つことが確認されました。テンス、アスペクト、モダリティという文法用語を使って整理することで、その複雑な意味の多様性が明確になりました。

 

3. 反省しているのは現在なのになぜ「た」を使うの?【た3】#91

第3回:日本語の「た」の多様な意味

このエピソードでは、堀本さんと水野さんが、日本語の過去形助動詞「た」の多様な意味について議論を続けています。特に、寺村英雄の「日本語のシンタックスと意味」からの事例を取り上げ、尾上圭佑の分類には含まれなかった「た」の意味を紹介します。

主な話題と要点

  1. 過去の意味の「た」
    • 寺村英雄の分類を参照し、さらに他の意味を検討。
    • 例:「ありがとうございました」「待たせてすまなかった」「それは良かったね」
      • これらはすべて、過去の出来事に関連する謝意や感謝の表現だが、単純な過去形以上の意味を持つ。
  2. 逆時制の一致
    • 「待たせてすまなかった」の例では、過去の出来事に対して現在の謝罪の気持ちが含まれている。
    • 尾上圭佑はこれを「逆時制の一致」として説明。
  3. 強調構文と歴史的現在
    • 強調構文として「収録が始まって2ヶ月後である」などの例を挙げる。
    • 歴史的現在についても触れ、昔の出来事を現在形で表現する手法。
  4. スポーツ実況での「た」
    • 例:「ぐんぐん打球伸びる、センターバック、取った!」
    • この「た」は一連の動作の完結を示すアスペクトの役割を持つと仮説を立てるも、相撲の「残った」に関しては説明が難しいと結論。
  5. 他の「た」の用法
    • 発見の「た」:「ここにあった」「ライオンがいた」
      • すべての発見が「た」で表現されるわけではないことを示す。
    • 仮定法の「た」:仮定や条件を示す。
      • 例:「信号機があれば、事故は防げた」「こんなうるさい部屋には暮らせたもんじゃない」
    • 大きくなったなあの「た」
      • 完了や発見の意味合いも含まれるが、モダリティの可能性もある。

結論

  • 日本語の「た」には多様な意味があり、単純な過去形を超えて様々なニュアンスや文法的役割を持つ。
  • 分類学的に「テンス」「アスペクト」「モダリティ」の3つのカテゴリーに分けることで理解しやすくなる。

次回の予告

  • 次回は「た」の本質的な意味について深掘りし、これらの多様な用法をまとめる大きなテーマについて議論する予定。

4. 「た」のルーツは室町時代【た4】#92

第4回:日本語の「た」の本質

今回のエピソードでは、過去の助動詞「た」の本質について深掘りします。日本語のネイティブスピーカーが自然に理解するこの助動詞には、多様な意味が含まれており、その共通の本質を探る試みが行われています。

主な内容と要点

  1. 尾上圭佑先生のアプローチ
    • 「た」の本質は「過去」と「完了」
      • 尾上先生によれば、「た」は過去と完了の2つの意味があり、それぞれが独立して一人歩きした結果として、確認や回想の意味が派生したと考えられる。
      • 確認の「た」:動作が完了したという確認の意味。例:「わかった」「見つけた」
      • 回想の「た」:過去を振り返る意味。例:「覚えている」「思い出した」
      • これにより、「た」は確認や早期(思い出す)の意味を持つことが説明される。
  2. 溝越あきら先生のアプローチ
    • 「た」の本質は「確認」
      • 溝越先生は、「た」が動作の確認を表すと説明。
      • 例:「ありがとうございました」「待たせてすまなかった」
      • これは、事態が話者の意識の中で確認されたことを示すものである。
      • 地域の方言:例として、山形県や北海道の方言で、過去形が挨拶や自己紹介に使われることが紹介され、これも確認の意味と関連づけられる。
  3. 認知言語学的アプローチ(山本正子先生)
    • 起点・経路・到達点スキーマ
      • 山本先生は、「た」の意味が起点・経路・到達点スキーマに基づくと説明。
      • これは、動作や状態の変化を表すもので、過去や完了の意味を含む。
      • 例:「彼は強かったが、一瞬で優しくなった」
      • このスキーマは、他の認知言語学の概念と結びつき、時間や数の概念を理解する助けとなる。

次回予告

  • 次回はさらに深掘りし、「た」の本質に関する他の学説を紹介します。具体的には、ある有名な言語学者の理論に基づき、「た」が過去のみで説明できるという理論を取り上げます。

 

5. なぜ『11人いる!』は「11人いた!」ではダメなのか?【た5】#93

現代日本語の「た」の多義性について

定信靖先生のアプローチ:過去形で説明できる

今回のエピソードでは、日本語の助動詞「た」の本質について定信靖先生の視点から解説が行われました。定信先生は、現代日本語の「た」をすべて過去形(テンス)だけで説明できると主張しています。これは非常に画期的なアプローチで、他の研究者が複数の意味や機能(アスペクトやムード)で説明していた「た」を、過去形という一つの観点で統一的に理解しようとするものです。

情報のアクセスポイント

定信先生の理論の核心には、「情報のアクセスポイント」という概念があります。これは、話者が過去のある時点にアクセスして情報を引き出しているという考え方です。この考え方に基づいて、「た」の様々な使い方を説明できます。

  • 例1:彼の電話番号はこれだったかな?
    • これは、話者が過去にアクセスしてその情報を思い出そうとしている状況です。電話番号が記憶に基づいているため、過去のアクセスポイントを使用していると説明できます。
  • 例2:600年前のピサの斜塔は新しかった
    • これは、話者が過去の知識にアクセスしている状況です。600年前の状態に精通している場合、過去のアクセスポイントを使って「新しかった」と言うことが自然になります。

探索意識

定信先生はまた、「探索意識」という概念を導入しています。これは、話者がある事象を予期しているかどうかに基づいて、「た」を使うかどうかを決定するものです。

  • 例:猿がいるかもしれないと思っていた場所で猿を見つけた時
    • この場合、探索意識があるため、「猿がいたよ」と過去形で報告することが自然です。
  • 例:猿がいるとは全く予期していなかった場所で猿を見つけた時
    • この場合、探索意識がないため、「猿がいるよ」と現在形で報告することが自然です。

統合的な理解

定信先生の理論を通じて、「た」の多義性が情報のアクセスポイントや探索意識という概念で統合的に説明できることが示されました。これは、従来の文法理論を補完する新しい視点を提供しています。

終わりに

これまでに紹介された他の研究者の理論(尾上先生、溝越先生、山本正子先生)とともに、定信先生のアプローチを理解することで、現代日本語の「た」の本質に対する多角的な視点を得ることができます。今回のエピソードは、日本語の助動詞「た」の理解を深める上で非常に有益な内容となりました。

参考文献

  • 定信靖著 『日本語学と対照言語学研究』
  • 尾上圭佑著 『日本語の文法と意味』
  • 溝越あきら著 『日本語の時間と意味』
  • 山本正子著 『日本語学習者の文法研究』

 

 

 

 

 

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  • この記事を書いた人

俊教授

言語、文化、アイデンティティ、未来を越えた夢の実現を願う仲間たちとともに台湾高雄で海外移住の研究を行っています。

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