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愛の不時着から見る北朝鮮と韓国

池上彰と増田ユリヤのYouTube大学から情報を得ています。今回は大ヒットドラマ『愛の不時着』から、北朝鮮と韓国の言葉の違いを見てみましょう! ちなみにこの内容はネタバレを含みます。まだ見ていないよという方はネタバレに気をつけてください。しかし、この内容を見ておくことで、、愛の不時着をもっと楽しめるようになるかもしれません。

北朝鮮と韓国: 言葉の違い

まずは登場人物の紹介から始めたいと思います。韓国のユン・セリと、北朝鮮の朝鮮人民軍将校リ・ジョンヒョクのラブストーリーとなっているわけですね。まずこの名前に注目しましょう。

リ・ジョンヒョクの「リ」を漢字で書くと「李」となります。この「李」は、韓国語では「イ」と発音します。たとえば、李明博(イ・ミョンバク)元大統領や、昔の独裁者 李承晩(イ・スンマン)も「イ」と発音されます。

興味深いことに、韓国でユンセリがリジョンヒョクを偽名で呼ぶときは「イ・ヒョク」と呼ぶのです。

Netflix / tvN より

他にも、普段の言葉でも違いがあります。

地雷を踏んでしまったジョンヒョクが、セリに対して「イロプソ(何でもない)」と言うシーン。「イロプソ(일 없소)」は「大丈夫」「問題ない」という意味ですが、韓国では全く使われない言葉です。映画やドラマで「イロプソ」がでてきたら、韓国の人は「あー、この人は北朝鮮か中国の朝鮮族の人なんだ」とわかるようです。日本語で言う「かまへんかまへん」とにているかもしれませんね。

今度韓国人にあったときに、笑いの種に「イロプソ(일 없소)」、使って見られてはいかがでしょうか?

このように、朝鮮半島には北と南でさまざまな方言があり、同じ文字でも読み方が異なることがあります。また、長年の分断の結果、言葉がずいぶん異なってきました。ドラマの中でも、片方が言ったことがもう片方に理解できないシーンが出てきます。

旦那・夫

南:남편(ナンピョン/男便)

北:세대주(セデジュ/世帯主)

→旦那さんのことを「世帯主」と堅苦しく呼ぶのがなんだかおもしろいですよね。また、北朝鮮では、「夫が稼ぐ」という風潮があるのが、この言葉からも強く伝わって来ますね。

南:거짓말(コジンマル)

北:후라이(フライ)

→こちらは劇中でも何度も何度も出てきました。日本語にも意味は違えど揚げ物という意味で「フライ」という発音の単語があるのでついついそのフライを想像してしまいました(笑)

スマホ

南:휴대폰(ヒュデポン/携帯+フォン)

北:손전화(ソンジョヌヮ/手+電話)

→日本語でも最近「携帯」とは言わずに「スマートフォン」「スマホ」とカタカナ語を用いることが多くなりましたが、韓国語でも同じような傾向にあります。北朝鮮ではこのように英語の発音を極力国語化しないようにしており、「手電話」という少し古びた印象のある言葉を使っているようです。

マスク

南:마스크(マスク)

北:입가리개(イㇷ゚カリゲ/口隠し)

→こちらも英語を使用しないように作った国語だと思いますが、なんとも直接的で「口隠しをしている」と聞くと、話してはダメなようにも感じてしまいます。

双極症 第六話

南:조울증(ジョウㇽヅン/躁うつ症)

北:기쁨슬픔증(キップㇺスルプㇺヅン/嬉しさ悲しさ症)

→北朝鮮の言葉の方が、本当にストレートに症状が表現されていて、韓国語や日本語よりどういった症状なのかわかりやすいですよね。言葉の表現の仕方が現代の日本人や韓国人より素直だと感じます。

さあいかがだったでしょうか! 韓国と北朝鮮の言葉、ドラマから違いを見つけると面白いですね。まるで間違い探しみたいです!

愛の不時着はNetflixできることができます。ぜひ愛の不時着を楽しんでみてください!

韓国の財閥

Netflix / tvN より

韓国の財閥令嬢ユン・セリと北朝鮮の中隊長リ・ジョンヒョク、この2人の恋愛模様が描かれるわけですが、彼らの周りにはいろいろな人たちが登場します。

たとえば、ユン・セリは韓国の財閥のお嬢様で、彼女の家族にはお父さん、お母さん、そして兄夫婦がいます。この家族の中で、誰を後継者にするかで揉めるという話が一つあるんですよね。

財閥の中のこうした家族間の争いは、例えば大韓航空の「ナッツリターン事件」を思い出させます。2014年、大韓航空というのは、大会社なのに家族経営を行っていて、財閥の娘であり大韓航空副社長だった趙顕娥(チョ・ヒョンア)という財閥令嬢が自分の会社の飛行機のCAさんのナッツの出し方が気に食わないということで、せっかく飛び立とうとしていた飛行機を無理やり引き返させたという、コメディのような事件が本当にあったんです! チョ・ヒョンアはその後「ナッツ姫」と呼ばれたのだとか。韓国人にとって「財閥」と聞くと、進んだ企業でありながらわがまま放題というイメージがあって、韓国の庶民は財閥に対して憧れと同時に反発を持っているんです。そのため、韓国ドラマで財閥の家族が描かれると、ひどい人たちとして描かれることが多いです。「愛の不時着」でも、そういった場面がいろいろとあり、庶民には骨肉の争いが受け入れられるのです。

リ・ジョンヒョクの周りの人たち

Netflix / tvN より

次に、リ・ジョンヒョクの周りの人たちを見てみると、朝鮮人民軍の関係者たちが登場します。彼の部下たち、第5中隊の人たちは、みんな良いキャラクターですよね。素朴で、それぞれが個性的でキャラが立っています。特に、韓国ドラマにハマっている兵士が出てくるでしょう。それが後で伏線になるんですよね。この部分はネタバレになるので深掘りしませんが、ドラマ構成上非常にうまく作られています。

さて、北朝鮮で本当に韓国ドラマが見られるかどうか気になるところです。実は中国と北朝鮮の中国側の国境沿いに朝鮮族と言う人々がたくさん住んでいます。中国国籍の朝鮮人たちです。その人々が、韓国からドラマのDVDを入手し、北朝鮮にこっそり持ち込んで売っているようです。その結果、北朝鮮でも韓国ドラマをこっそり見ることができるようになり、ハマってしまう人もいます。ただし、見つかると大変なことになるので、皆こっそりと楽しんでいるんです。そして、韓国ドラマに影響されて、韓国へ逃げようとする人も出てくるんです。

また、登場人物の中で「耳やろう」と呼ばれた盗聴担当の人物もいました。基本的に、北朝鮮では公共の施設やホテルなどはすべて盗聴されています。そのため、盗聴している人物が存在するわけです。以前、池上彰さんが平壌のホテルに泊まった時の話です。平壌には外国人専用のホテルというものがあります。それより前に、ある日本人がツアーでそのホテルに泊まり、夕食に不満を感じたらしく、部屋で「この食事はまずいな、寿司が食べたい」と言ったところ、翌日にはちゃんと寿司が出てきたそうです! 盗聴によって不満を知ったのでしょう。 そのような話を聞いていたので、池上彰さんは平壌のホテルに泊まるときには、盗聴されていることを前提に行動していたようです。もちろん、リ中隊長のように盗聴器を探して取るような行為をすれば大問題になるでしょう。

そして悪役のチョ ルガン少佐ですね。所属は「保衛司令部」と呼ばれていました。朝鮮人民軍内には、兵士たちの様子を監視する、いわばスパイのような、そして警察のような組織があります。これは、軍人たちが規律を守っているか、韓国の影響を受けていないか、スパイがいないかなどを監視、摘発する部隊で、恐れられています。この組織は絶大な力を持っており、リ・ジョンヒョクの家族に対して強い憎しみを抱いている様子が描かれており、胸が痛くなるようなシーンが多かったです。他の人々も「保衛司令部」を恐れています。これはドラマだけでなく現実でも、保衛司令部は恐れられる存在となっています。

リ・ジョンヒョクの婚約者であるソ・ダンさんにも触れましょう。彼女はロシアに留学しているのですが、これは実際に北朝鮮でもよくあることです。北朝鮮でも格差があり、軍の幹部や朝鮮労働党幹部の子どもたちが、ロシアやスイスに留学することがあるのです。金正恩(キム・ジョンウン)委員長も子供の頃スイスに留学していました。

リ中隊長もスイスに留学していましたよね。あれは本当にあることなんです。なぜスイスかというと、北と南の人が偶然に出会う可能性があるからだと思います。  ドラマの構成上とても都合の良い場所だというわけですね。  

※ここからネタバレ

非武装地帯、DMZ

そもそも、ユン・セリが北朝鮮に不時着するところから愛のドラマが始まります。彼女は自分の会社の製品テストをしていました。  スポーツウェアのテストで、ソウル近郊でパラグライダーに乗ったところ、突如竜巻に巻き込まれてしまい、その結果、ケソン(開城)近郊の軍事境界線に不時着してしまいます。  

軍事境界線の南北2kmずつには非武装地帯、通称DMZがあります。  

北朝鮮側の非武装地帯に不時着したユン・セリを北朝鮮の兵士たちが発見しますが、彼らは銃を持っていました。  実は、非武装地帯といっても自分を守るために拳銃や小銃を持つことは許されています。しかし、それ以上の武器、例えば機関銃や大砲などの銃火器は持ち込んではいけないことになっています。  

さらに、この地域には地雷が埋まっています。地雷の場所は将来的に撤去する必要があるので、通常はどこに埋まっているか分かるようになっているはずですが、誤って踏んでしまうということはあるのでしょうか?

近くに川がありましたね。北朝鮮の地雷は中国製の非常に竹でできている軽い地雷が多いです。それで、川が氾濫するとぷかぷか流れて思いもよらない場所に流れ着いてしまうことがあります。それを誤って踏んでしまうということがあるかもしれません。

地雷について誤解されがちですが、踏んだ瞬間に爆発するのではなく、踏んだ足を離したときに爆発します。ですので、踏んだらその場で止まればとりあえず爆発を避けられるのです。

また、竜巻が起きたために停電が発生し、ユン・セリが非武装地帯からさらに北にある高圧電流が流れている場所を飛び越えて、誤って村にたどり着いてしまうという展開になります。

ケソン

この北朝鮮の街「ケソン開城」というのは。韓国に非常に近い場所で、高麗の王都として栄えた場所です。日本で言うと京都のような古い町です。1000年ほど前にはが都で、いまでも古い建物が残っています。

このケソンと平壌を結ぶ高速道路のような一本道があります。この道路はアスファルトではなくコンクリートで舗装されています。日本の道路はアスファルトで舗装されていますが、戦車が走ると道路が壊れてしまいます。しかし、コンクリートだと戦車が通っても道路が壊れないのです。軍事上の理由で、また戦争が起きても戦車が走れるように、この道路はコンクリートで舗装されているのです。

ケソンは軍事境界線に非常に近い場所にあるため、ユン・セリが竜巻に巻き込まれてパラグライダーでこちらに落ちてしまうというのは、あながち不自然な設定ではないのです。そして、ついにユン・セリが不時着し、リ・ジョンヒョク中隊長との物語が始まります。

朝鮮人民軍

では、朝鮮人民軍についてもう少し話を進めていきましょう。

まず主人公、リ・ジョンヒョクですね。彼は第5中隊の中隊長で、この第5中隊は非武装地帯の警備を担当しています。ユン・セリが不時着したのを見つけたことからドラマが始まるわけです。

リ・ジョンヒョクの父親は、実は総政治局長であることが明らかになっていきます。総政治局長というのは非常に高い地位で、北朝鮮軍を政治的に統括する役割を持っています。2018年までは北朝鮮で3番目に重要な人物でした。改正後は5番目になりました。それでも非常に高い地位であることに変わりはありません。リ・ジョンヒョク中隊長の父親がそのような地位にあると分かった途端、周囲の態度が一変するのも無理はありません。まるで水戸黄門のように、普段は正体を明かさず、周囲が後からその偉大さに気づくという展開です。しかし、リ・ジョンヒョク中隊長自身はその地位を鼻にかけることなく、真面目に軍務をこなしているのが彼の魅力でもあります。

また、「特級少校」という階級についても触れておきます。これはいわゆる「スーパー少校」、エリートの証です。中隊長で、その地位にふさわしいだけの部下を率いているという意味です。

さらに、ドラマの中で登場した若い男の子の兵士もいました。彼は母親からの手紙を読んで涙を流し、「10年は帰れない」と言っていました。

北朝鮮では徴兵制があり、一度軍に入るとなかなか故郷に帰れません。韓国でも徴兵制がありますが、韓国では兵役がだんだん短くなり、軍によっては2〜3年で戻ることができます。しかし、北朝鮮の場合は10年も軍にいなければならず、特に軍事境界線の近くでの警備任務に就くと、故郷に帰る機会はほとんどありません。

何か手柄を立てないと帰れない、という話がちょくちょく出てきます。手柄を立てたりすると、ご褒美として実家に帰っていいよ、ということもあるそうです。実は、北朝鮮国内での旅行はかなり厳しく制限されています。たとえば、軍隊から実家に帰ろうとすると、「旅行許可証」というものを持っていないと、鉄道の切符を買うことができません。鉄道駅に行って、「どこどこ行きの切符をください」と言っても、許可証を見せなければ切符を売ってくれないんです。所属している組織からの旅行許可証を見せると、ようやく「じゃあいいですよ」と言って切符を買えるんです。

北朝鮮の生活

Netflix / tvN より

そして目的地に着きます。リ・ジョンヒョク中隊長が平壌の駅に着いたときも、そこには許可証を持っているかどうかをチェックする人がいましたね。

電車といえばキャンプの場面が有りました。なぜキャンプが必要かというと停電して列車が止まってしまったためです。北朝鮮では停電が頻繁に起こります。10時間程度の停電は当たり前で、もっと長くなることもあります。

その場面で、物売りがいっぱい集まってきました。最近では、闇市のような場所で物を売ることが少しずつ自由になってきたので、あのように何とかしてお金を稼ごうとする人たちが増えてきています。

例えば、池上彰さんがケソンに言ったときにケソンの旅館に泊まりました。夜八時までに食事が終わると電気が消えます。一晩中電気がつかず、もう真っ暗です。トイレにもいけないくらいなので、池上彰さんは日本から予め懐中電灯を持ってきたそうです。

ちなみにトイレは水洗トイレではありません。平壌の外国人専用のトイレは水洗ですが、ケソンの民宿のようなホテルは和式の「ぼっとんトイレ」です。それが後に肥料となります。

ドラマでは停電のシーンで、リ中隊長と一緒にキャンプができたらいいなと、ロマンチックに感じることもあるかもしれませんが、実際には停電はとても不便です。それでも、その不便さを恋愛のエピソードとして描く演出は見事だと思いました。実際に夜停電になると真っ暗になり、本当に何も見えなくなります。ただ、夜空の星がとてもきれいなんですよ。

池上彰さんは、ケソンで夜真っ暗になった時に外を見てみたそうです。本当に街全体が真っ暗なのですが、ちょっと高台の山の上だけぼーっと明かりがついているんです。金日成の像だけがライトアップされているのです。

VIPナンバー車

VIPナンバー車の話です。平壌で交通整理をしている女性の警察官のシーンがありました。あの時、ナンバープレートを見て、信号を青に変えるシーンも印象的でした。今では信号機が少し増えましたが、基本的には信号がほとんどなく、女性たちが手動で交通整理をしています。

ドラマで「729」というナンバープレートが出てきましたが、実際には「216」が正しい数字です。これは、2月16日、金正日(キム・ジョンイル)総書記の誕生日を意味しています。金正日総書記は、お気に入りの人々に「216」のナンバープレート付きの高級外車をプレゼントするんです。ドラマではジャガーが使われていましたが、普通はベンツが多いです。

北朝鮮で216のナンバープレートを見かけたら、「この人は本当に偉い人だ」「金正日(キム・ジョンイル)総書記のご寵愛を受けている人だ」「機嫌を損ねては大変だ」と分かります。だから、交通整理の女性が他の車を止めて、その車を優先させたんです。

舎宅村での生活についてです。リー中隊長が住んでいる村には、ユン・セリも住むことになりますが、そこでの食べ物や生活習慣について、「本当にこうなの?」と思う場面がいくつもありました。よく表現されている部分もあれば、「これはちょっと違うんじゃないか」と思うところもありました。

北朝鮮の車事情ですが、ジャガーなども見かけることはあります。しかし、どの国の車が多いのかと言うと、圧倒的に多いのはドイツの車、特にメルセデス・ベンツです。ベンツは高級車のイメージが非常に強いですからね。最近では中国製の車も増えてきていますが、やはりベンツが一番であるという憧れが強いわけです。一般の人々が車に乗ることはできるのでしょうか?それは難しいです。一般の人々が車を手に入れることはできませんし、免許もとれません。したがって、車を持っているというだけで、それは本当に一部のエリートや裕福な人々だけに限られるということですね。

髪型

有名なシーンがあります。ユン・セリがリ中隊長に髪を結んでもらって、この村に馴染むためにはこういう格好をしなければならないと話す場面です。ハンカチを出して髪を結んでくれるんです。確かに韓国の女性の髪型と北朝鮮の女性の髪型は全く違います。  

北朝鮮の女性たちは非常に素朴で、髪を簡単にまとめる感じが一般的です。一方、韓国のお嬢様のような髪型だと、違和感があり、不審人物だと疑われてしまうでしょう。

舎宅村の妻たち

Netflix / tvN より

舎宅村には気になることがたくさんありました。まず停電のシーンです。ユン・セリがテソンの近くに不時着し、道に迷ってたどり着いた村がありました。夜のシーンで少し明るく見えましたが、あれは映画の撮影用に明るくしているのでしょう。本当の北朝鮮の夜は、電気がほとんどなく、本当に真っ暗です。撮影のためには少し明かりを入れざるを得なかったのでしょう。基本的に夜になると村全体の電気がすべて消え、真っ暗になります。しかしそれだとドラマにならないですね。

停電中にロウソクで火を灯すシーンがありました。実際には夜遅くなるとすべての電気が消えることが多いのですが、それだけでなく、夕方に電気をつける時間帯に停電することも頻繁に起こります。

平壌のような恵まれた地区でも、レストランで食事中に電圧が変動して電気がチカチカすることがあります。本当に電力事情が悪いことがわかります。まして郊外や田舎に行くと、停電は日常茶飯事で、住民はそれに慣れているということですね。

また、最初のシーンで子供たちが学校に行くシーンや、妻たちが体操ダンスをしているシーンがありましたね。みんなで集団生活というわけです。特に子供たちは赤いスカーフをしていました。これはソ連が設立されたときに「ピオネール」と呼ばれる革命の子供たちを育てる制度が始まりで、その影響で北朝鮮でも採用されたものです。

ピオネールはロシア語で「パイオニア」の意味があり、革命を推進するための後継者を育てるという意味で、成績優秀な子供たちに赤いネッカチーフが与えられます。最終的には、よほど態度が悪くならない限り、すべての子供たちに与えられます。この赤いスカーフを付ける時子どもたちは、心ながらに国のために頑張ろうと思うのです。この制度が中国や北朝鮮、ベトナムでも模倣され、現在も続いているわけです。

ママ友たちの会話で、家庭教師がついているかどうかの話がありました。そのとき、金日成総合大学の学生についても触れていました。金日成総合大学は、日本で言うところの東京大学に相当します。本当にエリート中のエリートが通う大学で、頭が良くないと入れないと言われています。その金日成総合大学の学生を家庭教師につけるのですから、かなりのお金を払っているのだろうと思います。ちょっと鼻高々な感じもありますね。

また、すごく気になったのは、住民たちの真ん中にいる「人民班長」の役割です。日本の戦時中に隣組制度というものがありました。隣組制度は、大体5軒くらいを単位にして、リーダーが他の住民たちが非国民ではないか、本当に戦争のために尽くしているかどうかを監視し、もし変なことを言ったり政府を批判したりすると密告するという仕組みでした。朝鮮半島も日本の統治下にあったので、日本が撤退して北朝鮮ができた後も、その制度はそのまま残っているということです。その隣組のリーダーが人民班長で、他の住民がちゃんと仕事をしているか、政府を批判していないかを監視する役割を担っているのです。だから、他の住民たちからも恐れられたり、場合によっては密告されたりすることもあります。

でも、やはり「人民班長」も人間ですから、なかには人情味あふれる人もいるわけで、本当に情に厚い人たちもいるんです。そういった部分が描かれていて、かなりリアリティがありました。

例えば夜の見回りで、「しゃべる炊飯器」が見つかったりしましたが、あれも許してあげてましたよね。しかし、「美味しいもちもちしたご飯の魅力に負けた」みたいなことを言ってましたけど、実際のところ、そんな美味しい白米なんて手に入るわけがありません。あれは嘘ですね。

ただ、炊飯器について言えば、金日成(キム・イルソン)や金正日(キム・ジョンイル)体制の初期の頃は、闇市が禁じられ、国からの配給だけで暮らさねばならないということで厳しく取り締まられていました。しかし、だんだん国からの配給だけで生活するのが難しくなり、闇市で物を交換したり、売ってお金にするということが増えていき、それがどんどん、裏の経済として発展してしまいました。今では市場が認められるようになり、市場でいろんなものが買えるようになっています。その結果、庶民も昔に比べていろんなものが手に入るようになっているんです。

あの「しゃべる炊飯器」も韓国製ですよね。結局、韓国から中国に輸出され、中国の北朝鮮との国境沿いに住む朝鮮族の人たちが、それを北朝鮮に密かに持ち込んだわけです。

市場

それから、リ中隊長がユンセリから「緊急事態だ」と言われて、シャンプーやリンス、ボディシャンプーを買ってくるシーンがありましたよね。あれも全部韓国製でした。でも、「韓国製」と言うとまずいので、「南町」という隠語を使っていました。

また、ユンセリが「コーヒーが飲みたい」とわがままを言って、リ中隊長から豆からコーヒーを淹れてもらったシーンがありましたよね。

昔はそんなこと全くなかったんです。大豆などを使った代用品が主流で、あのような本物のコーヒーなんて想像もつきませんでした。でも、闇市が公認され、今では市場でいろんなものが買えるようになった結果、ああいったコーヒーも手に入るようになったわけです。

市場での買い物のシーンもありましたよね。北朝鮮の生活といえば配給制かなとか、買えるものが限られているのかなと思っていましたが、実際には、「南町」つまり韓国のものがいろんな商品が並んでいました。

例えば、金日成や金正日の体制の初期には、すべてが配給制で、人々が市場で自由に売買するなんてことは禁じられていたんです。闇市のような形でしか行えませんでした。社会主義の計画経済では本来、自由な市場が存在しないはずだからです。しかし、やはり人々は欲しいものがありますよね。そうなると、物々交換が始まり、次第に市場で多くのものが売買されるようになり、人々が少しでも良いものを手に入れたり、儲けを狙ったりするようになります。

その結果、市場がないと経済が成り立たなくなってしまいました。金正日体制の後期から現在の体制では、このような市場が正式にできるようになったんです。

ちなみに、「しゃべる炊飯器」はどうでしょうか?おそらく韓国製ですよね。特に中国との国境沿いには朝鮮族という朝鮮系中国人が多く住んでいて、彼らは韓国朝鮮語が自由に話せるので、韓国のものを手に入れやすいんです。そのため、これらの商品が北朝鮮に密かに運び込まれ、市場で売られているということです。

お金

そして、あの市場で取引されているのが北朝鮮の紙幣ですね。米ドルも使われていましたね。

お金を見るとその国がどんな国かがわかります。北朝鮮のお金の単位は「ウォン」です。韓国と北朝鮮、どちらも同じ通貨単位を使っていますが、実際には価値が全然違います。韓国のウォンの方がはるかに価値が高い、10倍以上の違いがあります。

それでは、この紙幣に何が描かれているのか見てみましょう。まず、この10ウォンの紙幣をご覧ください。ここには軍人が3人描かれています。手前が陸軍、真ん中が海軍、奥が空軍です。これで北朝鮮がいかに軍人を大切にしている国かがわかりますね。

さらに驚くのが、この5ウォンの紙幣です。ここに描かれているのは科学者です。そして、この部分に描かれているのがウランの原子核ですね。これは北朝鮮が核開発に成功し、核兵器を保有したことをアピールするためのものです。科学者と物理学者を描くことで、核兵器を持っていることを強調しているわけですね。この紙幣は比較的新しいものです。北朝鮮が自力でウランの原子炉を建設したり、核開発に成功した後に、新たに作られた紙幣があるんです。

実は、100ウォン紙幣には金日成主席の肖像画が描かれています。この紙幣を例えば財布に入れて後ろのポケットに入れ、座ったりすると、金日成主席を尻に敷いたことになり、大変な問題になるんです。不敬罪のような扱いを受けることになるんですよ。あるいは、紙幣をうっかりしわくちゃにしてしまうと、「金日成主席を侮辱した」として問題になります。そんな理由で、みんな怖くて使えなくなってしまうんです。

しかし、100ウォン紙幣を手に入れる庶民はほとんどいないですね。基本的に庶民は、5〜10ウォンくらい使うので精一杯です。それでも、ドラマの中では1ドル紙幣が使われていました。1ドルは日本円にすると大体105円くらいですが、北朝鮮ではとても貴重なんです。

池上彰さんが北朝鮮に行ったときもドルが使われていましたが、今はユーロが使われています。ユーロなら多くの商品を購入できるんです。また、ヨーロッパの国々の大使館が北朝鮮に多く存在していることもあり、ユーロが使用されることが多いんです。増田ユリヤさんががスペインに行ったとき、スペインの人に「なんで北朝鮮からのお土産を持っているの?」と聞かれ、驚いたことがあるようです。「北朝鮮の人たちはいい人たちで、俺の友達にもいるよ」と言われたときは、返事に困りました。遠くにいるとそう見えるかもしれませんが、隣国としてはとんでもないことです。

だから、ユーロ圏からの外交官が北朝鮮でユーロ紙幣を使うことがあるため、実際にユーロは使えるということです。

はまぐりのガソリン焼き

Netflix / tvN より

もう一つ気になったのが、ユンセリが美味しそうに食べていたハマグリをガソリンで焼いていたシーンです。あれは本当なんです! 実は、あれは北朝鮮では有名な方法なんです。北朝鮮では、みんなでピクニックに行くことがあるのですが、ピクニックに行くとハマグリにガソリンをかけて火をつけるんです。ハマグリのガソリン焼きは、まさに北朝鮮の名物料理と言えるでしょう。

北朝鮮ではハマグリをガソリンで焼いて食べるんですか?とても美味しそうに見えますが、ガソリンの匂いはどうなるのでしょうか。そうなんですよね、日本だと炭火で焼くのが一般的だと思いますが、北朝鮮では燃料不足が問題なんです。それでも自動車用のガソリンは比較的手に入りやすいため、ガソリンで焼いてしまおうという発想になるんです。考えてみれば、なんて乱暴なことだと思いますが、もちろんガソリンの匂いはします。それでも皆、美味しく食べられるそうです。ユンセリが「甘い、甘い」と言いながら一生懸命食べていましたが、あれを見ると本当に美味しそうですよね。特にピクニックのような場面では、そうやってガソリンで焼く非常に乱暴な料理ですけど、確かに名物料理と言えるでしょう。

韓国では贅沢な食べ物にしか慣れていなかったユンセリが、あのハマグリを「甘くて美味しい」と言ってたくさん食べていました。それを見て、女子たちは「北朝鮮の食べ物って美味しそうだし、素晴らしい国なんじゃないの?」と思ったかもしれません。確かにハマグリは美味しく食べることができますが、それをもって北朝鮮の食糧事情が良いと思ってしまうのは、大きな誤解です。

特に、トウモロコシを食べるシーンがありますが、あれは誤解を招きやすいですね。

トウモロコシを食べるシーンは美味しそうに見えましたが、実は北朝鮮の庶民が食べられるトウモロコシは、日本の甘くて美味しいスイートコーンとは全く違うものです。北朝鮮では、食糧不足のために飼料用のトウモロコシを育て、それを食べることが多いんです。白米もほとんど手に入らないので、わずかにあるご飯にトウモロコシを混ぜて「トウモロコシご飯」という形で増量しています。まさに雑穀のような感じですね。

ですから、あのシーンで出てきた「しゃべる炊飯器」で作られた「もちもちの白米」なんて、現実にはあり得ない話なんです。美味しそうに見えたかもしれませんが、それは党の幹部など特権階級の話です。総政治局長の家なら白米を食べられますが、一般庶民の家では白米を全く手に入れられません。だから、トウモロコシとご飯でなんとか増量して食べるのが現実なんです。

それでも、この社宅村の生活が、厳しいように見えても「今の生活も悪くないな」と思わせるのはなぜでしょうか? それはやはり、人間的なふれあいがあるからでしょうね。あの社宅をどう感じましたか?みすぼらしく見えましたね。しかしみすぼらしいとは言いつつも、古き良き昭和の時代を知っている人であれば、こんな光景があったかもしれないと感じるかもしれません。隣近所のおばあちゃんがご飯を食べさせてくれたような記憶もあって、なんとなく懐かしい気がするでしょう。

人民の楽園

ただ、実際の住宅事情はこれほど良くないです。平壌では立派なアパート暮らしですが、田舎に行くと崩れかけた住宅がずらりと並んでいて、悲惨な状態です。このドラマ用のセットは、実際よりもずっときれいで住環境が良さそうに見えるように作られていますが、現実はもっと悲惨です。

また、看板には「人民の楽園」といった言葉が書かれていますね。あれは北朝鮮中にポスターや看板として掲げられています。「ここは人民の楽園だよ」とわざわざ言っているわけですが、本当に楽園なら、わざわざ書かなくてもいいはずですよね。

北朝鮮を社会主義と言っていいのでしょうか? もともと社会主義を掲げて建国されましたが、今では社会主義から完全に逸脱しています。「金王朝」と呼ぶべきでしょう。例えば、社会主義を学ぶときには、マルクスやエンゲルスの著作、マルクスの「資本論」などを読むべきですが、北朝鮮ではマルクスやエンゲルスは禁書で、一般の人はそれを読むことができません。なぜなら、それを読んでしまうと、北朝鮮が「社会主義だ」と言っているけれど、実際には全然違うことが分かってしまうからです。そのため、特別な許可を得た一部の学者だけが読むことが許されています。

皮肉なことに、韓国では言論の自由があるので、マルクスやエンゲルスの本を自由に読むことができますが、北朝鮮では読めないんです。

社宅村のシーンが印象に残ります。例えば、人民班長が最初は偉そうに振る舞っていたり、威張っていたりしましたが、結局困っている人がいると助け合う場面がありましたよね。やっぱり、どの世界でも庶民はみんなで助け合って生きているんだなと感じます。それは、日本でも本当に貧しかった頃、ご近所同士で夕飯を分け合ったり、醤油を貸し借りするのが普通だったように、今でも北朝鮮でもそういうことがあるのかなと思いました。ここが少し救いとなる部分ですね。

北朝鮮は社会主義の国とおっしゃいましたよね。でも、北朝鮮の正式名称は「朝鮮民主主義人民共和国」ですよね。「民主主義って名前がついてますけど…」ということですが、北朝鮮としては、あくまで「人民のための民主主義の国」だと主張しています。でも、もし本当に民主主義の国なら、そんなことをわざわざ言う必要はないですよね。実際他の国でも、「民主主義」と名前に入っている国ほど、民主主義ではないことが多いです。例えば、かつての東ドイツは、社会主義のもとで言論の自由がなく、民主主義ではありませんでしたが、正式名称は「ドイツ民主共和国」でした。また、アフリカには「コンゴ民主共和国」という国がありますが、これもとても民主主義とは言えません。わざわざ国の名前に「民主」や「民主主義」とつけることは、逆に「そうじゃないんだな」と分かるという皮肉なものですね。

統一したらね

それから、ユンセリが何かあるごとに「統一したらね」と言う場面がありますよね。特に主人公がその言葉を聞いてがっかりするシーンがありました。でも、チェジウに合わせてくれると言って「本当ですか! 」と喜んで期待してたら、「統一したらね」と言ってがっかりする。そうしたシーンが印象的でした。やはり、同じ民族だから統一できたらいいなという思いがあるんでしょうね。このドラマにも、そのようなメッセージが込められていると思います。きたと言っても同じ人間だし同じ朝鮮民族だ。一緒に暮らす、統一するといいなという考えが含まれているのでしょう

ただ、韓国の保守派からは「北朝鮮を美化しすぎている」という批判もあります。このドラマに対して、北朝鮮はそんなに良いところではないぞ、と感じた人もいるようです。実際に北朝鮮が楽園のような場所ではなく、地獄のような現実があるのだぞ、このドラマが北朝鮮を美しく描きすぎているという批判を浴びているようです。

でも私達としては、それでもやっぱり統一ができたらいいなと思いながら見ていましたね。

宣伝部隊

また、平壌に行く長距離列車のシーンも出てきますね。途中で停電したりしますが、その列車の中がやたらと楽しそうに見えました。音楽隊が登場して、みんなで歌ったり、車内を歩き回ったりしていましたが、こんなことって北朝鮮では実際にあるのでしょうか?実は、北朝鮮にはそういう宣伝部隊があるんです。つまり、人々を喜ばせたり、文化活動を行ったりする音楽隊がいるんです。

例えば、田んぼで農作業をしている時期になると、音楽隊があぜ道にやって来て、「さぁ、みんな頑張れ」と音楽を流します。また、収穫の場面でも音楽隊がやって来て、同じように激励します。私なんかは、そんなことするよりあなたたちも手伝った方がいいんじゃないかと思いますが、彼らはそうやって人々の気持ちを盛り上げ、革命的思想で「人民のために頑張れ」と鼓舞するんです。実際に列車に乗ると、音楽隊が現れる場合があるということですね。

招待所

劇中に素晴らしい建物がありましたよね。クスンジュンが滞在していた「招待所」とはどういう場所でしょうか?

この「招待所」というのは実際に存在します。地図には載っていないのですが、例えば日本から拉致された人たちが、そういった招待所に入れられて、人里離れた山の中に隔離されているということがあります。一般の北朝鮮の住民とは全く接触できない場所にあるんですよ。拉致問題が取り上げられたニュースの中で、そういった招待所の話が出ていたこともあります。

ただし、このドラマでクスンジュンが招待所に入るという設定は、韓国で犯罪を犯して指名手配されている彼が、北朝鮮に逃げ込んだからというものですが、これはフィクションです。実際には韓国から逃げて招待所に入るということはありえないでしょう。韓国人の北朝鮮への立ち入りは固く禁じられているからです。

しかし、ドラマの中で賄賂を渡して何とかしようとするシーンがありますよね。実際、北朝鮮では賄賂が横行していて、お金を渡せばいろんなことが可能になるというのは確かです。そういう意味では、このような状況が起こり得るかもしれないと思う人もいるでしょう。

クスンジュンは、イギリスのパスポートを持っている人物でしたが、韓国で犯罪を犯して指名手配されています。それで、北朝鮮に逃げて身を隠そうとしたわけです。要するに、韓国人ではなくイギリス人なので、イギリスのパスポートを使って北朝鮮に合法的に入国したという設定です。イギリス人が北朝鮮に入国し、しかも招待所に入るというのは非常に特殊なケースです。招待所は、通常の手続きで入れる場所ではありません。しかし、韓国のパスポートで入国したわけではないので、彼がスムーズに行動できたと考えられますね。

「11課」

この話に関連して、ちょうどそのシーンでユンセリがなぜここにいるのかという話題になりましたよね。そこで中隊長が「11課」と言っていましたが、ドラマの中では彼女が11課の一員だとされていました。この「11課」とは何かというと、正式には「朝鮮労働党組織指導部11課」という部門です。本当に存在するものです。

北朝鮮では朝鮮労働党が事実上の一党独裁を行っています。厳密にはあと2つ政党があるのですが、実際にはすべて朝鮮労働党の一党支配となっています。そもそも、北朝鮮の憲法の上に労働党が位置しています。これは、日本や他の国々とは異なりますね。日本では憲法のもとに政党があります。しかし例えば、中国も同様で、中国共産党が憲法の上にあるため、憲法で一応、言論の自由や表現の自由、結社の自由などは認められていますが、その解釈権は中国共産党が持っています。それで、言論の自由があるんだと言って共産党の悪口を言ったりすると、国家政権転覆煽動罪と言う罪で捕まってしまいます。

北朝鮮でも同様に、憲法では基本的人権が認められているということになっていますが、実際は朝鮮労働党が全てを解釈し、統制しています。

だからこそ、朝鮮労働党のメンバーであることが明らかになると、軍の人たちは非常に敬意を払いますし、一般の人々も何も言えなくなります。朝鮮労働党には「組織指導部」という様々な部門があり、1課、2課、3課… と分けられています。11課は「対南工作」、つまり韓国に対する工作活動、つまり韓国にスパイを送り込む部署というわけです。だからドラマで「11課」と言われたとき、韓国にスパイで入っているんだ、だから韓国なまりでも当然だねと納得したわけです。11課のメンバーは身元を明かさなくてよいし、調査もされません。スパイ活動に従事しているため、北朝鮮の一般市民も何も言えなくなるのです。中隊長がその事実をうまく利用したというわけです。実際に北朝鮮にはそういう部署で働いているスパイがいて、彼らは実際に韓国に潜入しているということです。これらのスパイは北朝鮮の国家公務員であり、韓国でさまざまなスパイ活動を行い、韓国の体制を転覆させるための工作をしているというわけです。

「一歩くらいはいいだろう」

方向音痴ではない人が突然方向音痴になるシーンについてです。このシーンでは、リ・ジョンヒョク中隊長がユン・セリを韓国に帰そうとします。彼女を非武装地帯の軍事境界線のところまで連れて行き、韓国側へ送り出そうとするのですが、中隊長が思わず引き止め、一歩だけ南側に入ってしまうシーンです。

もちろん、これはフィクションなので問題ないのですが、現実の北朝鮮ではこれが非常に重大な犯罪になります。もし本当にそんなことをしたら大変なことになりますが、周りには誰もいないという設定なので、二人だけの秘密として描かれています。

北朝鮮では、韓国側に逃げようとする行為や、二重スパイ的な行動は重大な犯罪とみなされます。

ユン・セリが非武装地帯から韓国側に入って、その後すぐに韓国に現れるシーンについてです。突然、自分の家がある場所に現れるわけですが、現実にはありえないことです。南側には韓国軍の兵士が厳重に警備しているので、もし誰かが非武装地帯を越えて韓国側に入ってきたら、その場ですぐに捕まり、大騒ぎになってニュースになるはずです。もしユン・セリが韓国に現れたと知れたら、それこそ大きなニュースになります。

ただ、ユン・セリが財閥令嬢であるため、特別扱いされた可能性も考えられます。しかし、それでも非武装地帯を越えて韓国に入ってきた女性が財閥令嬢だと分かれば、さらに大きなスキャンダルになったでしょう。でも、誰にも知られずに韓国に戻ってくるというのは、ドラマとしては面白い展開ですよね。

「人が動いているのが見えた」

次に進みましょう。このシーンでは、登場人物が高い山の上から双眼鏡で向こうを覗いていますよね。ユン・セリが遠くを見たいと言っている場面です。実は、私たち外国人がパンムンジョム(板門店)の境界線近くに行く際、途中で山の上から展望する場所があります。そこからは遠くに北朝鮮のケソンが見えるのです。

ところが、その場所は外国人しか入れない場所です。ドラマ上の登場人物たちが覗いているソウル近郊の山の上からは、実際には北朝鮮は見えないはずなんです。あのような演出があると、日本人である私達は、ソウル近郊の山から北朝鮮が見えると誤解する人もいるかもしれませんが、ソウルの人たちは誰でもここから北朝鮮が見えないということは知っています。ソウル近郊の山はそれほど高くなく、軍事境界線までの距離もあるからです。だけど、セリには「見えた」ということはつまり、北朝鮮にいるリ・ジョンヒョク中隊長のことを思い、見えたように思えたという、これは切ない女心を表現したシーンなんですね。見えないものが見えるように感じる、切ないシーンとして描かれているのです。

韓国に続くトンネル

韓国に続くトンネルを匍匐前進で進むという、少し現実味のないシーンがありましたよね。古い鉱山の跡地を進んでいくシーンですが、これは現実的ではありません。ただ、実際に北朝鮮から韓国に向かう秘密のトンネルは存在します。これまでに4本見つかっています。そして行くこともできます。第二と第三トンネルは外国人が見られるようになっています。トロッコのようなものに乗って途中まで進み、「ここがその場所なんだ」と説明を受けます。

これは休戦協定に違反しています。北朝鮮からしてみると、いつでも韓国を責めることができるようにしようということで、本当なら南北2kmずつ一切軍事施設を作ってはならないということになっているのに、こっそり地下にトンネルを作って韓国を攻めることができるようにしているのです。しかも今見つかっている4本だけではありません。北朝鮮から逃げてきた人の証言によると二十数本作られていると言われています。

また北朝鮮は韓国の軍隊の制服を大量に偽造しています。もし何かあったときは、韓国軍の制服を着た北朝鮮の特殊部隊が何万人という単位で出現するということが可能なのです。

韓国軍は北を向いています。アメリカ軍も北からの侵略に備えています。その背後から突然、韓国軍の制服を着た北朝鮮兵が現れたらどうでしょうか? 北朝鮮と韓国の言葉は違いますが、もともと同じ言語ですから、初めて見たときにはおそらく敵か味方か区別がつかないかもしれません。

では、そのようにして攻めてきた場合、何をしようというのでしょうか? 目的は韓国を占領し、朝鮮半島を北朝鮮主導で統一することです。朝鮮戦争も、金日成が朝鮮半島を軍事的に統一しようとしたことから始まりました。この野望は今も続いているのです。だから、チャンスがあればいつでも軍事的に統一を図ろうという準備ができている、それがあのトンネルなのです。

しかし、そのようなトンネルが本当にソウルまで届くのか、少し疑問に思いながらも、匍匐前進して韓国側に入ることができる距離にはなっているようです。そう思うと、複雑な心境になりますね。こんなに近いのに、同じ民族なのに、自由に行き来できないことに切なさを感じます。

さらに、韓国の情報部が海岸線に設置された監視カメラで不審な動きを捉えています。北朝鮮からこっそり上陸してくる可能性に備えて、韓国内には監視カメラが設置されているのです。映像に何かが映ったということで、「北朝鮮から侵入者がいるのではないか」と警戒するのです。

このように、ドラマには現実に基づいた部分もあれば、少し現実とは違う部分もありますが、それがまた面白さを生んでいるのかもしれません。

韓国の情報機関

ドラマの後半では、舞台が韓国に移りますよね。そこで韓国の情報機関が登場します。国家情報院という名前が出てくるシーンもありますが、これは韓国にもそのような情報機関があることを示しています。

特に、北朝鮮のリ中隊長の部下が「韓国の情報機関に捕まると拷問されるかもしれない」とか「拷問に耐えるぞ」と言っているシーンがありましたよね。実際、かつて韓国には拷問で有名だった情報機関が存在しました。それが「大韓民国中央情報部」、略してKCIA(Korean Central Intelligence Agency)です。これは1961年、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領がクーデターで政権を掌握した際、自らの政権を維持するために設立した秘密情報部門でした。

表向きは北朝鮮からのスパイ対策が目的でしたが、実際には独裁政権に反対する人物や民主化運動をする人物を次々に捕らえ、拷問にかけて仲間の情報を得るなどの行為が行われていました。このKCIAが拠点を置いていたのが「南山」(ナムサン)で、「南山に呼ばれる」ということは当時の人々にとって非常に恐怖でした。そこに連れて行かれ、拷問を受けた末に命を落とす人もいたのです。

例えば、大韓航空機撃墜事件というのがありました。1983年、旧ソ連の戦闘機に、領海侵犯した大韓航空機が撃墜されるという事件です。日本人27人を含む267人が死亡しました。ソウルには日本の報道機関がいくつもありましたが、その電話はすべてKCIAに盗聴されていました。また、各新聞社やテレビ局で働く韓国の記者たちも定期的にKCIAに呼び出され、日本の報道機関がどんな取材をしているのか、どんな情報源を持っているのかを話すように強要されていました。話さないと拷問を受けるのです。

拷問の内容としては、強制的に大量の水を飲まされるなどがありました。人間ってそんなに水を飲めませんよね。でもなぜ水を使った拷問をするかというと、他の拷問のように証拠が残らないからです。例えば、爪を剥がすなどの拷問は後で発覚しやすいため、水を使った拷問が行われました。また、民主化運動をしている学生には、逆さ吊りにして頭を水に浸け、息ができないようにするなどの拷問も実際に行われていました。このような組織がKCIAだったのです。

そして、日本人が驚くような事件がありましたね。それが1973年の「金大中(キム・デジュン)拉致事件」です。この金大中は後に韓国が民主化された後、大統領になります。当時、「金大中」という名前で知られる彼のことを「キンダイチュウ」と言っていました。

金大中は韓国の民主化運動を進めていて、韓国に居られなくなり、日本とアメリカを行き来しながら支持を呼びかけていました。そして、東京都内のホテルに滞在中に、突然KCIAに拉致され、日本から船で連れ出され、ソウルまで連れて行かれるという事件が起きました。本当に驚きましたよね。日本国内でこんなかってなことをするんだと、大騒ぎになった事件でした。

また、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が暗殺された事件もありました。驚くことに、この暗殺を実行したのが、KCIAの部長だったんです。朴正煕大統領自身が設立したこの機関の部長が、大統領に恨みを持っていて、食事中に銃で朴正煕大統領を暗殺したんです。こんな事件も過去にはありました。

その後、全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領、これもまた軍事独裁政権ですが、彼はKCIAをさらに拡大し、大大的に反政府勢力を弾圧するために「国家安全企画部」(安企部)を設立しました。当時は全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領は「ぜん とかん」と呼ばれていましたね。今は、韓国の人たちの読み方は韓国の発音で読むようになったので名前が変わっています。

しかし、韓国が民主化の波に乗ると、特に金大中大統領の下で、韓国の民主化が進んだことで、この機関も「国家情報院」として生まれ変わりました。拷問を行うような組織から衣替えしよう、情報組織も民主化しようということになりました。ただ、一部では今もなお、そうした行為が行われているのではないかとも言われています。それでも、ドラマでも取り調べはかなり紳士的に行われたのでしょう。

では、ここからドラマに登場する国家情報院について話しましょう。この機関は、現在は比較的穏やかに取り調べが行われているようですね。つまり、今ではそういう組織になったということです。

しかし、現在のムン・ジェイン大統領は、北朝鮮と良好な関係を築きたいと考えています。この国家情報院は、北朝鮮のスパイを摘発する役割も担っていますが、その役割を警察に移そうという動きがあります。つまり、北朝鮮のスパイ摘発を警察に任せ、国家情報院は今後主に国際情勢や海外情報の収集を行う組織にしようという新しい法律が可決されました。

では、スパイ摘発が警察に移されることで、何が変わるのでしょうか? それは、北朝鮮のスパイを摘発するのが非常に難しくなるということです。警察はさまざまな仕事をしており、北朝鮮のスパイに関する専門的なノウハウを持っているのは国家情報院だけです。突然、警察にその役割を任せるとなると、対応が難しく、ノウハウを獲得するまでには相当な時間がかかります。まるでゼロからのスタートになるようなものです。

そのため、韓国野党は、北朝鮮のスパイを摘発できなくなるのではないかと猛烈に反対しています。一方で、ムン・ジェイン大統領としては、北朝鮮との関係を改善したいという意図があり、そのために北朝鮮スパイを摘発する専門組織を弱体化させるという戦略を取っているのです。このように、政権の考え方や北朝鮮との関係次第で、政策や対応が大きく変わることが分かりますね。

北朝鮮の貧しさ

北朝鮮では、貧しい人々はどのくらいいるのでしょうか。北朝鮮では、国民を3つの階層に分類しています。「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3つです。

核心階層とは、日本統治時代に貧しい農民であったり、弾圧されていた人々の子孫、あるいは朝鮮戦争で戦死した人々の遺族などが含まれます。北朝鮮政府は、彼らがいれば国家が成り立つと考え、この階層の人々には平壌に住むことが許されています。

一方、敵対階層とは、日本統治時代に日本に協力していた人々の子孫や、朝鮮戦争時に韓国へ逃れた家族を持つ北朝鮮の人々です。彼らは敵対する可能性があるとされ、都市部に住むことは許されず、田舎に送り込まれたり炭鉱労働者として重労働を課されることが多いです。

動揺階層はインテリ層に属し、大学の教授や知識人が含まれます。彼らは信用できないと見なされており、平壌には住めませんが、肉体労働ができるわけでもないため、地方の都市に住むことが許されているものの、厳重な監視下に置かれています。

このように、核心階層の人々だけが平壌に住むことができ、比較的豊かな生活を送ることが許されています。それ以外の階層の人々はみんな貧しい生活を送っています。しかし核心階層の「豊かな生活」といっても、食べるものが配給されるということです。我々が考えるようなものではなく、飢え死にしない程度の生活が保障されるという意味です。

核心階層の人たちは平壌に住んでいます。平壌ではアパートが与えられ、アパート生活をしています。基本的な食料はすべて配給で賄われるため、飢え死にすることはありません。また、デパートやスーパーマーケットも少しありますので、そこで買い物もできます。こうした人々が北朝鮮に一握りだけいるということです。

ドラマでも北朝鮮で豊かな生活をしている人たちが登場しますが、それは本当に一握りです。そのような人たちはどうやってお金を得ているのでしょうか? 例えば、彼らは国家公務員なので給料はもらえ、特別扱いされています。朝鮮労働党の幹部であれば絶大な権力を持っており、その権力を利用して様々な恩恵を受けます。例えば、自動車が手に入る、子供を海外に留学させるといったことです。

たとえば、リ中隊長がスイスに留学していたのは、彼の父親が非常に高い権力を持っていたからこそ、特別にスイスに留学できたのです。普通の人々は海外に行くことなど絶対にできません。しかし、権力者が「お礼」として賄賂を受け取ることで、特別に海外に行かせてもらうことができます。

こうした賄賂で豊かな生活を送る人たちも中にはいるということです。ですが大半の人々は食べることにさえ困っているということです。

公開処刑

北朝鮮に公開処刑はあるのでしょうか?はい、あります。例えば反政府運動をしていることが発覚した場合や、過去には金正日体制の時に金正日を批判するビラが撒かれたことなどもありますが、そのような場合、見せしめとして公開処刑が行われます。その際、人々を動員してその場で公開処刑を見せます。

処刑方法ですが、銃殺刑が一般的です。対象者を立たせて複数の人間が一斉に銃撃し、その場で殺害します。その様子を「皆が見るように」と呼び出され、動員されるのです。大勢の住民を連れてきて処刑の様子を見せ、「裏切るとこうなるのだ」と警告するのが公開処刑の目的です。

実際にそれを目撃した人が韓国に逃げてきて、「こんなことが行われていた」と証言する例もあります。

北朝鮮にもドラマや映画はありますか?

はい、あります。韓国のドラマを見ている人もいると言われていますが、当然ながら北朝鮮のテレビでは北朝鮮版のドラマや映画が放送されています。例えば、朝鮮戦争で英雄的に戦った兵士の物語や、日本統治時代に日本の支配に対抗して戦った英雄たちのドラマなどがあります。ラブストーリーはあるのでしょうか? 知る限りでは、そういったドラマはほとんどないようです。ただし、子供向けのアニメはあります。もちろん、北朝鮮のために戦う英雄的な子供たちを描いたアニメです。日本のアニメのような作品はありません。そのため、北朝鮮では国を維持するためのプロパガンダ的な映画やドラマ、アニメが主流となっています。

北朝鮮では政略結婚は多いのでしょうか?

はい、あるようです。例えば、朝鮮労働党の幹部の場合、いろいろな特権が与えられることが多く、子供を海外に留学させることもできるようです。そのため、闇の商売で金を儲けた人の子供と、朝鮮労働党の幹部とを引き合わせて結婚させるような政略結婚も行われていると言われています。一般の庶民が自由に結婚できるのでしょうか?恋愛結婚は現在、かなり一般的になってきたと言われています。昔は封建的で、親が決めたお見合いで結婚することが普通でしたし、親が子供の結婚相手を決めることもよくありました。ドラマでも、ソダンさんがそれでしたね。今でもそのような結婚があると聞きますが、恋愛結婚もかなり認められるようになってきたようです。

北朝鮮の富裕層はどんな生活をしているのでしょうか?

キャラメルマキアートを飲むことができるのでしょうか?例えばピザ店など、さまざまな店が最近増えてきていて、一部の富裕層が訪れるカフェもあります。キャラメルマキアートがあってもおかしくはないと思います。そういった意味では、北朝鮮の平壌のごく一部のエリアでは、文化的な生活や新しい食生活も取り入れられている状況になっているようです。ただし、地方や郊外に行くと、そういったものは全く見られません。

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  • この記事を書いた人

俊教授

言語、文化、アイデンティティ、未来を越えた夢の実現を願う仲間たちとともに台湾高雄で海外移住の研究を行っています。

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